日本繁殖生物学会 講演要旨集
第106回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-17
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卵・受精
マウス体外受精胚におけるミトコンドリア膜電位,活性酸素種濃度と胚発生の関連性
*小松 紘司岩瀬 明馬渡 未来山下 守吉川 史隆
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抄録

【目的】過排卵処理によって得られる卵子には通常とは異なる過程を経て排卵される卵子が含まれている。そのため,過排卵処理を施した雌マウスから得られた卵子を個体別に体外受精,培養すると胚盤胞形成率は個体によって異なる。これは過排卵由来の卵子に質の違いがある事に起因すると思われる。本実験では過排卵処理が卵子に及ぼす影響を検証するため,母性因子の制御を受けて発生が進行する1細胞期胚,2細胞期胚におけるミトコンドリア膜電位と活性酸素種(ROS)に着目し,胚発生との関連性を調べた。【方法】ICR 8–10週齢雌マウスを用いた過排卵処理—体外受精によって得られた1細胞期胚,2細胞期胚の一部を蛍光プローブによって染色し,共焦点顕微鏡の撮影画像から蛍光強度を指標に割球別のミトコンドリア膜電位とROS濃度の算出を行った。残りは培養して胚盤胞形成率を調べた。ミトコンドリア膜電位とROS濃度の比較を胚盤胞形成率が80%以上のグループと80%未満のグループに分けて行った。【結果】ミトコンドリア膜電位は1細胞胚において2つのグループ間で有意な差は見られなかったが,2細胞期胚では80%未満のグループにおいてミトコンドリア膜電位の上昇度が小さく80%以上のグループに対して有意に低い傾向が見られた。 ROSも1細胞期胚では有意な差は見られなかったが,2細胞期胚において80%以上のグループで有意に高い傾向が見られた。しかし,脂質過酸化反応によるタンパク質修飾を比較すると,ROS濃度が低い80%未満のグループにおいて有意に高い傾向が見られた。胚でのROSの局在を見ると膜電位が低いミトコンドリアに高濃度で局在している事から,80%未満のグループでは1細胞期以降にミトコンドリア膜電位が上昇せず,ミトコンドリアが長時間高濃度のROSに晒された状態になるため,酸化ストレスによるダメージを受けやすい状態にあると考えられる。これらの結果から一部の過排卵由来の胚では1細胞期以降のミトコンドリア膜電位上昇が正常に起こらず,発生が停止するものが存在することが明らかになった。

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© 2013 日本繁殖生物学会
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