日本繁殖生物学会 講演要旨集
第106回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR1-26
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生殖工学
ウシ精子のジチオスレイトール(DTT)処理がICSI後の初期卵割と胚発生に及ぼす影響
*及川 俊徳板橋 知子沼邊 孝堀内 俊孝
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抄録

【目的】ウシ顕微授精(ICSI)は精子注入後4時間目で卵子をエタノール処理することで体外受精と同様の胚発生率となる。一方,ジチオスレイトール(DTT)処理したウシ精子のICSIで胚発生率が向上するとの報告もある。最近,ウシ体外成熟卵のIVF後27時間までの正常卵割胚から発生した胚盤胞の移植により高い受胎率が得られることが報告された。そこで,本研究では,DTT処理精子のICSIにおける初期卵割での正常卵割胚の出現と,その後の胚発生に及ぼす影響を調べた。【方法】実験1:精子のDTT処理時間を検討した。5 mM DTTの10,30,60分間処理を行い,mBBr染色で精子頭部のSH基を蛍光顕微鏡で検出し,無処理区に対する相対蛍光強度を算出した。実験2:食肉処理場由来のウシ卵子をTCM199+EGF+FSHで22時間成熟培養した。凍結精液を融解し,10 mMカフェイン添加m-TALP液で1,300rpm,5分間処理を2回実施し精子浮遊液を作成した(無処理区)。DTT区は精子洗浄2回処理の間に5 mM DTT添加m-TALP液で10分間培養した。精子浮遊液はPVPと混合しICSIに用いた。ICSIはピエゾマイクロマニピュレーターで既報に従い実施した。ICSI胚はmSOFで培養し,ICSI後27時間において,正常卵割(NC),異常卵割(ANC),27時間以降に卵割した胚(Late)に分類した。胚はmSOFで8日間培養し,胚盤胞への発生を調べた。【結果】実験1:10~60分間のDTT処理におけるmBBr染色の蛍光強度は2.8~2.5と同様であり,無処理区と比べDTT区の蛍光強度は有意に高かった。この結果からDTT処理時間は10分間とした。実験2:DTT区および無処理区のICSI後27時間での初期卵割率は各49.7%,49.5%で有意な差はなかった。初期卵割胚のうちNC率は各61.1%,48.9%となり,DTT区で有意に高かった。総計の胚盤胞率は各27.6%,10.5%となりDTT区で有意に高かった。NCの胚盤胞率は各56.8%,29.6%となりDTT区で有意に高かった。以上の結果よりDTT処理精子のICSIにより正常卵割率が増加し,胚盤胞発生率が増加することが明らかとなった。今後は,NCに由来する胚盤胞の移植による受胎率を調べる予定である。

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© 2013 日本繁殖生物学会
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