【目的】最近,マウス半数体ES細胞が樹立できることが報告され,生殖系列を含むあらゆる組織に分化できることが明らかとなった。半数体ES細胞はゲノムを1セットしか持たないため,単一アレルのノックアウトにより遺伝子の機能消失を起こすことができる長所がある。一方,CRISPR/Casによる遺伝子のノックアウトは,ターゲットと相補的な配列をベクターに導入するだけでベクターを構築できるので,ZFNやTALENと比べ簡便なDNA2本鎖切断,非相同末端再結合による遺伝子のノックアウト法として期待されている。【方法】本研究では,雌BDF1マウスより未受精卵を回収し,活性化刺激により得た半数体胚よりES細胞を樹立した。樹立したES細胞をセルソーターにより半数体細胞のみ分離し,Cas9発現ベクターとともにTet1,Tet2,Tet3遺伝子を標的とするガイドRNAを単独もしくは一度に半数体細胞に導入し,ノックアウト細胞株の樹立を試みた。そして,PCR-RFLPとシーケンスの確認により,ノックアウト細胞株を同定した。【結果】58個の未受精卵から26個の桑実期胚が得られ,17ラインのES細胞を樹立した。そのうち半数体細胞を含む細胞株は14ライン(82%)であった。単独遺伝子のノックアウト実験では,Tet1,Tet2,Tet3いずれにおいてもノックアウト細胞株を高頻度で得ることができた。また,トリプルノックアウト実験でも,一度のトランスフェクションでTet1,Tet2,Tet3の全てがノックアウトされた株が得られた。さらにTet1遺伝子では2箇所の標的に対するガイドRNAを用い14kbの大規模染色体欠失株を得ることができた。【考察】本研究により,半数体ES細胞を用いてCRISPR/Casにより複数遺伝子のノックアウトや大規模染色体欠失を一度に容易に行えることが明らかとなった。CRISPR/Casは従来のZFNやTALENと同様に遺伝子のノックアウトに有効な手段であり,今後はこの方法が広く利用されるようになると予想される。