日本繁殖生物学会 講演要旨集
第106回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR2-8
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精巣・精子
ウシ精子鞭毛におけるアデニル酸キナーゼの役割
*絹川 将史内山 京子
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抄録

【目的】ウシでは人工授精による受胎率の低下が顕著であり,精子の品質低下がその原因の一つである可能性がある。受胎性に関連する精子側の要因として精子の運動性があるが,この分子機構は十分に解明されていない。精子の運動性維持には鞭毛全体に亘るATPの供給が必須であるが,ミトコンドリアは鞭毛中片部にしか存在しないため,鞭毛先端に亘るATP供給機構は不明である。そこで,ATP合成酵素であるアデニル酸キナーゼ(AK)の検討を行った。【方法】ウシ精子のAK活性は,AKの特異的阻害剤Ap5Aを用いて測定した。AKが精子運動能に及ぼす影響は,除膜再活性化の実験系でAp5Aを用いて確認した。牛精子におけるAKの局在は,抗AK1抗体を用いた免疫ブロット法および免疫染色法によって検査した。AK1発現蛋白質は,大腸菌を用いて作製した。【結果】ウシ精子のAK活性の測定法を確立し,AK活性はAp5A濃度依存的に阻害されたことを確認した。ウシ精子をTritonX-100を含む液で処理すると,AK活性の約1/3が沈殿に確認され,約2/3が上清に確認された。除膜再活性化の実験系では,ADPを用いた鞭毛運動の再活性化はAp5A濃度依存的に阻害されたが,ATPを用いた鞭毛運動の再活性化はAp5Aによって阻害されなかったため,AKがウシ精子でADPからATPへの変換反応に介在し,鞭毛運動に重要であることが推察された。AKファミリーのAK1特異的抗体を用いてウシ精子における局在を調べたところ,ウシAK1はウシ精子のTritonX-100可溶性画分に多く存在した。また,免疫染色の結果から,鞭毛全体に亘ってウシAK1が存在することが確認された。また,発現ウシAK1にはAK活性が確認されたため,少なくともウシAK1は,鞭毛部位全体に亘ってATP供給機構に関与し,鞭毛運動に影響を与える分子であることが示唆された。これらのことから,アデニル酸キナーゼ活性を含めたATP合成系の検査は,ウシ精子の品質を評価するうえで有効な手段になることが推察された。

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© 2013 日本繁殖生物学会
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