抄録
【目的】受精直後は,ヒストンの修飾やDNAの脱メチル化などエピジェネティックなリプログラミングが起こり,その後の胚発生に影響を与える重要な時期である(Saitou et al., 2012)。しかしながら,受精直後の雌雄ゲノムのリプログラミングの分子機構について十分に理解されていない。これまで,我々は受精後のプロテアソーム活性を一過性(1–9hpi)に阻害すると,その後の着床前発生と胚性ゲノムの活性化(zygotic gene activation, ZGA)の開始が遅延することを明らかにしている(Shin et al., 2010)。本実験では,初期胚における転写制御機構へのUPSの関与について明らかにすることを目的に,プロテアソーム活性阻害剤MG132の処理がRNAPIIの細胞内局在に与える影響について検討した。【方法】過剰排卵処置を行ったICR系マウスを用いてHTF培地にて体外受精を施し,cyclin B1の分解後(媒精1時間後),MG132を5 μMで添加したKSOM培地下で8時間培養した。それらの胚を供試し,PT,TP処理後RNAPII抗体を用いて染色した。【結果および考察】MG132を受精直後の一過性に処理した胚は,RNAPIIの核内へ局在は未処理区と同様に認められたのに対し,クロマチンへの結合の遅延が認められた。また,MG132処理胚では,未処理区と比較してRNAPIIのCTD領域のリン酸化(Ser-2,Ser-5)も遅延していた。これらの結果から,UPSの受精直後のエピジェネティック・リプログラミングへの関与が示唆された