日本繁殖生物学会 講演要旨集
第106回日本繁殖生物学会大会
セッションID: P-72
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卵・受精
ブタ卵子の低温傷害に温度感受性TRPチャンネルは関与しているか
*新見 沙織北山 みずほ竹下 純隆松川 和嗣葛西 孫三郎枝重 圭祐
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抄録

【目的】ブタ卵子は低温感受性が高く,15℃以下に数分間さらされると傷害を受ける。もし低温傷害のメカニズムが明らかになり,この傷害を簡単に回避できるようになれば,ブタ卵子の凍結保存が実用化できるかもしれない。本研究では,皮膚の神経などに存在して温度を感受する温度感受性TRPチャンネルに着目し,このチャンネルがブタ卵子の低温傷害に関与しているかどうかをしらべた。【材料および方法】屠場由来のブタ卵巣から卵丘細胞に包まれた卵核胞期卵子を採取した。回収直後の卵子を未成熟卵子,10%FCSと0.1 IU/ml hMGを添加したTCM-199液中で12時間培養した卵子を成熟途上卵子,同液で48時間培養後に極体の放出が確認された卵子を成熟卵子とした。<実験1>TRPチャンネルのmRNAの発現を調べるために,種々の成熟段階の卵子からcDNA を合成し,低温を感受するTRPA1とTRPM8の塩基配列をもとに作製したプライマーを用いてリアルタイム PCR を行い, mRNA の相対的な発現量を調べた。<実験2>低温傷害における低温感受性TRPチャンネルの関与を明らかにするために,TRPA1のdsRNAを未成熟卵子に注入して,12時間培養して作製したTRPA1発現抑制成熟途上卵子を低温処理 (15℃で10分間) した後に,さらに36時間培養して,低温処理による生存率と成熟率の低下が改善されるかどうかをしらべた。【結果および考察】<実験1>17℃以下の低温を感受するTRPA1のmRNAはいずれの成熟段階の卵子においても発現していたのに対し,26℃の低温を感受するTRPM8のmRNAは成熟卵子でのみ発現していた。<実験2>卵子を低温処理すると,無処理の卵子と比べて生存率は3分の1以下に低下し,成熟率も大きく低下した。しかしながら,TRPA1のdsRNAを注入したのち低温処理した卵子では,生存率と成熟率のいずれもが改善された。これらの結果から,ブタの未成熟卵子の低温傷害にはTRPA1が関与していると考えられた。

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© 2013 日本繁殖生物学会
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