日本繁殖生物学会 講演要旨集
第106回日本繁殖生物学会大会
セッションID: P-97
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生殖工学
凍結乾燥精子で受精したマウス初期胚のライブセルイメージング解析
*水谷 英二若山 清香岸田 佳奈若山 照彦
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抄録

【目的】哺乳動物の生殖細胞保存技術は畜産,医療,基礎生物学分野さらに生物種の保全など多くの分野で利用されている重要な技術である。我々が開発したマウス精子の凍結乾燥保存方法は,精子を液体窒素や冷凍庫なしでも1か月以上,–80℃では長期保存可能であり,サンプルの輸送も簡便であるため,新規生殖細胞保存法としての利用が期待される。ところが凍結乾燥精子を顕微授精した場合,産仔率が新鮮精子と比べて非常に低いという問題がある。そこで本研究では凍結乾燥精子で受精した胚の初期発生過程をライブセルイメージング解析し,発生停止の原因を探った。 【方法】複数のBDF1マウスから精子を採取し,個体別に凍結乾燥精子を作成した。初めにこれらの精子を顕微授精して個体間の産仔率の違い調べた。次に高い産仔率だったもの(BDF1–1)と,産仔が1匹も得られなかったもの(BDF1–2)を選んで顕微授精し,前核期にH2B-mRFP1のmRNAを注入後,ライブセルイメージングにより観察を行った。一部の胚は発生促進を期待して人為的に活性化し,同様にライブセルイメージングにより観察した。また新鮮精子の顕微授精胚をコントロールとして用いた。 【結果】イメージング解析に用いたサンプルBDF1–1および2の産仔率はそれぞれ22%と0%であった。ライブセルイメージングの結果,産仔率によらず凍結乾燥精子で受精した胚は新鮮精子を用いた場合と比較して第一卵割までにかかる時間が長く,各胚間でのばらつきも多かった。凍結乾燥精子由来胚では第一卵割での染色体分配異常が新鮮精子 (7%)と比べて非常に多く,BDF1–1が78%, BDF1–2では87%で両者の間に有意な差はなかったものの産仔率が高いもので少ない傾向があった。人為的活性化刺激を加えた胚では染色体分配異常が増える傾向が見られた(BDF1–1 88%, BDF1–2 100%)。以上より,第一卵割における染色体分配異常が凍結乾燥精子の発生停止の原因であり,この頻度が産仔率に影響していることが示唆された。

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© 2013 日本繁殖生物学会
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