抄録
【目的】卵巣予備能の違いは牛の繁殖性に影響を及ぼすことが報告されているが,卵子品質への影響は明らかになっていない。そこで本研究では,卵巣内の胞状卵胞数(AFC)を卵巣予備能の指標としたAFCの異なる牛生体から経腟採卵(OPU)により採取した体内発育卵子の受精能を確認した。さらに,AFCの異なると体卵巣内の初期胞状卵胞から卵子顆粒層細胞複合体(OGCs)を採取して体外発育培養(IVG)を行い,その発育能および卵子核成熟能について検討した。【方法】供試牛(n=8)は超音波診断装置(9 MHz)で確認できるAFCにより2群(両側卵巣中の合計; High ≥24およびLow <24個)に分け,3–4日間隔のOPUにより卵丘卵子複合体(COCs)を採取した。全てのCOCsは体外受精に供し,受精率を確認した。と体卵巣はAFC(直径2 mm以上)により2群(1卵巣中; High ≥25およびLow <25個)に分け,直径0.5~1 mmの初期胞状卵胞から形態学的に正常なOGCsを採取し,12日間IVGに供した。4日毎の培養液交換時にOGCsの生存性を確認し,8および12日目に顆粒層細胞数を計測した。生存卵子は成熟前(pre-IVM)および成熟(IVM)培養に供し,核相,卵細胞質内のミトコンドリア活性および活性酸素種(ROS)量を検査した。【結果・考察】体内発育卵子では,COCsの形態および精子侵入率にAFCによる差異は認められなかったが,雌雄両前核を有する正常受精卵子率はHigh群(29.0%)がLow群(19.7%)に比べて高かった(P<0.05)。IVGでは,OGCs生存性に差は認められなかったものの,培養12日目の顆粒層細胞数はHigh群がLow群に比べて多かった(P<0.05)。pre-IVM後の核相および卵細胞質内ROS量に両群間で差異は認められなかったが,ミトコンドリア活性はHigh群の方が高く(P<0.05),IVM後の核成熟率もHigh群(82.1%)がLow群(69.5%)より高かった(P<0.05)。以上の結果から,AFCによって推定される卵巣予備能の高い牛に由来する卵子の核成熟能および受精能は高いことが示唆された。これは卵胞発育時の顆粒層細胞の増殖能や卵子細胞質内ミトコンドリア活性が高いことに起因していると考えられた。