抄録
【目的】 ウシを含む様々な哺乳動物では,着床不全のために多くの受精卵が妊娠に至らない。着床は一連の現象であるが,それらを個々の現象として検証することが多い。そこで,着床を一連の現象として子宮内(in vivo)および培養細胞系(in vitro)で解析した。 【方法】 ウシ妊娠17(着床前),20(着床中),22日(着床後)胚と子宮内膜組織を回収し,RNAタンパク質を抽出後,次世代シーケンサー,リアルタイムPCR法やウェスタンブロット法で解析した。また,子宮組織切片を用いて免疫染色を行い,主要因子の局在を検証した。さらに,着床過程を再現するウシ胚細胞(CT-1)と子宮上皮細胞(EEC)の生体外モデルを用いて主要因子の機能を検証した。 【結果】 着床前ではL-セレクチン(SELL)が子宮においてのみ認められ,着床直後からVCAM1の発現が上昇した。着床後の子宮内では癌細胞の転移に見られる「上皮間葉系転換(EMT)」に係わる因子群の発現変化が見られた。胚では上皮系マーカーのCytokeratinの発現は認められたが,E-cadherinの発現は認められなかった。一方,間葉系マーカーのVimentin とN-cadherinの発現が認められた。また,SELLの発現をsiRNAによりノックダウンしたEECでは,CT-1細胞のEEC細胞への接着性が低下した。 【考察】 着床期のウシ胚と子宮上皮において,新たにSELLとVCAM1が胚の子宮内膜上皮細胞への接着に関与していた。その後にはEMT関連因子の発現が見られた。リンパ球ホーミングにおいてSELLとVCAM1はそれぞれ減速因子と接着因子として働いている。このことから,胚の子宮内膜上皮細胞への接着ではリンパ球ホーミング機構を利用しているだけではなく,癌転移で見られるEMT機構をも使って進行することが明らかになった。