日本繁殖生物学会 講演要旨集
第108回日本繁殖生物学会大会
セッションID: P-76
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生殖工学
超小型恒温器を用いて宅配便で常温輸送した近交系マウス胚の発生
*野老 美紀子若山 清香鎌田 裕子福永 憲隆浅田 義正若山 照彦
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抄録
【目的】一般的に初期胚の輸送には,ガス濃度,温度および湿度等を最適な状態に維持するためにCO2インキュベーターの機能を搭載した輸送器が用いられる。しかしながら,それらの輸送器は大きくて重いだけでなく,精密な培養環境を維持するため高価な装置となっている。我々はこれまでに,超小型恒温器(約15 cm平方)を用いて宅配便で常温輸送したBDF1マウス胚から産仔の作出に成功している。そこで我々はこの新しい輸送方法の汎用性を高めるために,実験動物として広く用いられている近交系マウスの胚を超小型恒温器に入れ宅配便によって輸送し,その胚発生率を検討した。【方法】近交系マウスとしてC57BL/6とC3H,クローズドコロニーとしてICRマウスの胚を実験に用いた。胚の輸送には,我々が開発した小型のバッテリー式恒温器を使用した。輸送の際,IVFで作出した前核期胚を0.5mlマイクロチューブ内にいれ培養した。チューブは使用前に洗浄し,ガス濃度を調節するため蓋に穴を開け,ガス透過膜を挟み,プラスチックバッグにミックスガス(5%CO2,5%O2,90%N2)とともに封入した。実験では前核期胚を常温の宅配便で山梨大から名古屋の浅田生殖研に送り,到着後すぐに山梨大へ送り返してもらい,発送から4日目に超小型恒温器から胚を回収した。対象区は胚をチューブに入れ,通常のCO2インキュベーターで培養した。【結果】超小型恒温器で4日間培養された胚の桑実期・胚盤胞期への発生率は,C57BL/6 59.8%,C3H 61.4%およびICR 63.2%であり,対象区のインキュベーター内で培養した区の,C57BL/6 51.3%,C3H 80.0%およびICR 54.5%と比較して大きな差は見られなかった。発生した胚は偽妊娠雌へ移植し,現在出産を待っている状況である。【考察】これらの結果より,広く実験に用いられている近交系マウス胚も,従来の精密で高価な大型輸送器を使わずに,非常に低コストで輸送可能であることが明らかになった。生きたマウスや凍結胚の輸送に代わる新しいマウスの分与方法になると考えられる。
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© 2015 日本繁殖生物学会
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