【目的】卵巣内の卵母細胞を体外で発育・成熟培養し,受精可能な成熟卵を作出する技術は新たな繁殖技術として期待されている。卵母細胞を体外で発育させるには,卵母細胞と周囲の卵丘細胞の結合を維持し,卵母細胞の裸化を防ぐことが必須であり,初期胞状卵胞から採取した卵母細胞の生存性を維持し発育させるには,卵丘細胞に加えて壁顆粒膜細胞をも含めた複合体が用いられる。しかし,採取が容易な卵母細胞−卵丘細胞複合体(OCC)を用いた体外発育培養系がより実用的と思われる。本研究では,OCCを用い,発育途上のブタ卵母細胞の体外発育に及ぼす培養酸素濃度の影響を調べた。【方法】ブタの卵巣から直径0.5~0.7 mmの初期胞状卵胞を切り出し,OCCを採取した。OCCを5%酸素(5%O2-5%CO2-90%N2)および20%酸素濃度(5%CO2-95%空気)条件下で14日間体外発育培養した。一部の実験では,培養6日後に酸素濃度を変更した。3日ごとに,正常な構造を持つOCCの割合を調べ,培養終了後に卵母細胞の直径と核相を調べた。卵丘細胞が卵母細胞を完全に覆っているOCCを正常と判断した。また,体外発育培養後,正常な構造を持つOCCを成熟培養し,卵母細胞の成熟能力を比較した。【結果】培養14日後,正常な構造を持つOCCの割合は,20%酸素条件下では22%(n=59)であったが,5%酸素では47%(n=63)と有意に高かった。また,培養6日後に20%から5%酸素へ変更すると正常なOCCの割合は増加し,逆に5%から20%酸素へ変更するとその割合は低下した。5%酸素で発育培養した後,正常な構造を持つOCCから採取した卵母細胞の直径は平均126 µmであり,核相は体内で発育を完了した卵母細胞と同様となった。また,発育培養後の成熟培養により,約50%の卵母細胞が第二減数分裂中期へと成熟した。以上の結果から,ブタ卵母細胞−卵丘細胞複合体の体外発育培養では,5%の低酸素条件を用いると,発育した卵母細胞を高率に回収できることが明らかになった。