主催: 日本繁殖生物学会
会議名: 第111回日本繁殖生物学会大会
開催地: 信州大学繊維学部
開催日: 2018/09/12 - 2018/09/16
体細胞核移植法によってこれまで様々な哺乳動物種でクローン個体が作られてきたが,その作出効率はどの動物種においても非常に低い。我々はこの低い効率の原因として,ドナー体細胞に存在するヒストンH3の9番目リジン残基トリメチル化(H3K9me3),および核移植後に起こるXist遺伝子の過剰な発現がクローン胚の発生を阻害する主な原因であることをこれまで報告してきた。今回我々は,これらの二つの阻害因子について,それぞれヒストン脱メチル化酵素であるKdm4dの強制発現,およびXistノックアウト体細胞をドナーとして使用することで同時に回避した結果,マウスクローンの作出効率を最高で23%にまで改善することに成功した。しかしながらこのようにして作出したクローン胚でも,胎盤の過形成や着床後の発生停止など,クローン特有の異常な表現型がまだ認められた。そこで,これらクローン特有の発生異常の原因を見つけるため,胚盤胞期胚を用いてDNAメチローム解析をした結果,クローン胚でDNAメチル化異常を示す領域を多数同定した。また,着床前期胚のアレル特異的なトランスクリプトームおよびChIPシークエンス解析をした結果,最近新たに同定された「ヒストンH3の27番目リジン残基トリメチル化(H3K27me3)によって制御されるインプリント遺伝子群」が,クローン胚ではインプリント情報を失って両アレルから発現していることが明らかになった。H3K27me3依存的なインプリント遺伝子の多くが胎盤形成や着床後発生に関与することから,クローン胚ではこれらのインプリント遺伝子が過剰に両アレルから発現してしまうことでクローン特有の異常な表現型が起きていることが強く示唆された。以上の結果は,体細胞クローンの作出効率を改善する方法を示すだけでなく,今後のクローン研究をすすめていくうえで基盤となる重要なエピゲノム情報を提供するものである。