日本繁殖生物学会 講演要旨集
第111回日本繁殖生物学会大会
セッションID: OR2-10
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性周期・妊娠
胎盤特異的な父性発現遺伝子Sfmbt2の欠損マウス個体における表現型の解析
*井上 貴美子廣瀬 美智子長谷川 歩未持田 慶司小倉 淳郎
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抄録

【目的】胎盤特異的に発現が観察されるSfmbt2遺伝子は,齧歯類特異的な父性発現刷り込み遺伝子である。既報により,父性アレルの欠損が胎盤低形成を原因とした胎生致死を引き起こす事が知られているが,その胎盤発生における機能については分かっていない。本研究では,Sfmbt2遺伝子の機能を明らかにする目的でSfmbt2遺伝子の欠失個体を作製し,その表現型を解析したので報告する。【方法】Sfmbt2遺伝子の第3と第10エクソンをターゲットとしたgRNAを合成し,(B6D2F1xB6)F1の受精卵にCas9タンパク,またはmRNAと共に注入を行った。2細胞期にて偽妊娠雌の卵管内に胚移植を行い,得られた個体について遺伝子型を決定した。【結果と考察】細胞質内注入を行った251個の2細胞期胚を移植し,83匹の産仔を得た。うち,3匹の産仔において目的の欠失が観察され,雌マウス1匹について野生型雄と交配を行ったところ,欠失遺伝子の次世代への伝達が確認された。次に,欠失を有する雄個体と野生型雌との交配により得られた次世代の遺伝子型を確認したところ,父親由来の欠失は次世代に伝達し,かつ既報に見られるような胎生致死は観察されなかった。さらに胎盤形態においても低形成などの異常は見られなかった。多型解析による発現解析により,野生型では正常な父性発現を示すが,父性アレル欠失マウスでは母性アレルからの発現が代替的に上昇しており,これによりレスキューされていることが明らかとなった。一方で,ヘテロ同士の交配においては,両アレルが欠失したノックアウト個体は胎仔期も含めて全く得られなかった。さらに遡って着床前の桑実期・胚盤胞期胚の遺伝子型を解析したところ,桑実期胚では23%,胚盤胞期胚では14%の胚がノックアウトであった。従って,Sfmbt2遺伝子は,着床期以降の胚の発生に必須の遺伝子であり,欠損によって,重篤な致死性を示すことが明らかとなった。

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