主催: 日本繁殖生物学会
会議名: 第112回日本繁殖生物学会大会
回次: 112
開催地: 北海道大学
開催日: 2019/09/02 - 2019/09/05
【目的】下垂体性矮小症は成長ホルモン(GH)欠損により矮小体躯を呈す疾患であり,その原因は下垂体の発生・分化に関わる遺伝子やGH遺伝子の異常にある。一方,GH遺伝子のみの異常にも関わらず繁殖成績が悪化することも確認されているが,そのメカニズムは不明である。そこで本研究では,自然発症のGH単独欠損モデルSpontaneous dwarf rat(SDR)を用いてGH産生細胞の欠損が下垂体前葉に及ぼす影響を解析した。【方法】雄SDRおよびSprague-Dawley ラット(対照)下垂体を摘出し,定量PCRおよび免疫組織化学により下垂体前葉における遺伝子発現とそれらの免疫陽性細胞数を比較した。【結果および考察】SDRの下垂体前葉ではGH陽性細胞が欠損していた。また,プロラクチンおよび甲状腺刺激ホルモン陽性細胞の割合は対照よりSDRにおいて低かったが,性腺刺激ホルモン陽性細胞の割合に差はなかった。一方,副腎皮質刺激ホルモン陽性細胞の割合は対照よりSDRにおいて高かった。遺伝子発現を比較したところ,幹細胞マーカーSox2発現量に大きな差はなかったが,前駆細胞マーカーProp1発現量は対照よりSDRにおいて顕著に高かった。免疫組織化学的解析を行ったところ,SOX2陽性(SOX2+)細胞の割合は対照よりSDRにおいて有意に低かった。興味深いことに,それらのPROP1陽性率(SOX2+PROP1+/SOX2+)は対照よりSDRにおいて2倍以上高かった(SDR: 72.9 ± 6.2% vs.対照: 27.2 ± 3.1%,p<0.01)。一方,下垂体の発生過程において外部から侵入して下垂体の組織幹細胞になるS100β陽性細胞を観察したところ,SDRの下垂体前葉にはS100β陽性の幹細胞がほとんどなかった。以上の結果から,GH産生細胞の欠損は下垂体幹・前駆細胞の分化を抑制すること,および下垂体前葉への組織幹細胞の定着を阻害することが示唆された。