主催: 日本繁殖生物学会
会議名: 第113回日本繁殖生物学会大会
回次: 113
開催地: 東北大学
開催日: 2020/09/23 - 2020/09/25
【目的】 当研究室ではヒト非閉塞性乏精子症・無精子症患者精巣中でのインターロイキン1(IL1)亢進に着目し,IL1活性抑制遺伝子Il1rn, Il1r2 を同時欠損させたマウス(ΔRAΔR2)を作出したところ,オス個体の妊孕性が低下した。本研究ではΔRAΔR2オスの妊孕性低下の原因解明を目的とした。【方法】ΔRAΔR2の精巣を回収し,病理切片解析を行なった。またΔRAΔR2の行動テストや妊孕性の評価を行い,脳内ミクログリアについてはIBA1免疫染色にて評価した。さらにIL1分子実体であるIL1AあるいはIL1の下流分子TNFを欠損するΔRAΔR2マウス(ΔRAΔR2Δ1A ,ΔRAΔR2ΔTNF)を作出し,同様に解析した。【結果】ΔRAΔR2は交配を行っても膣栓がつかず,妊孕性も著しく低下していた。しかし乏精子症を呈する個体は1割程度であったことから,ΔRAΔR2の不妊の原因は交尾行動不全にあることが示唆された。そこで各種行動解析を行ったところ,オープンフィールド試験での毛づくろい時間の増加やホールボード試験の穴覗き回数の低下といった不安様行動が観察された。また巣作り行動やガラス玉の覆い隠しを行わないことから,生得的な行動に異常があることが示唆された。さらにΔRAΔR2の海馬歯状回では野生型と比較して脳内ミクログリア細胞数が有意に増加していた。一方でΔRAΔR2Δ1AやΔRAΔR2ΔTNFでは妊孕性が回復し,巣作り行動は完全に回復していた。【考察】全身性のIL1の活性亢進は精子形成異常とは独立で妊孕性低下と行動異常を引き起こすことを見出した。またΔRAΔR2の病態はIL1Aが引き金となる炎症カスケードが体内で生じ,その下流分子であるTNFも関与していることが示唆された。これらの結果から,ΔRAΔR2の妊孕性低下の原因の一つとしてIL1シグナル亢進による脳・神経系の機能障害が考えられる。今後は交尾行動不全や脳高次機能変容の実態とその分子機序を解明していく必要がある。