霊長類研究 Supplement
第36回日本霊長類学会大会
セッションID: H03
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中高生発表
ヒトの子どもとチンパンジーのナッツ割り比較
木村 陽向井上 寧々岩田 悠市神谷 杏奈小森 弘貴永坂 知也古田 萌恵山内 虎太郎
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抄録

ギニア共和国ボッソウにおけるチンパンジーのナッツ割り行動に関心を持った我々は、現代日本のヒトの子どもを対象とした実験結果との比較を通じ、ヒトの道具使用・加工の開始について探究することにした。チンパンジーの行動については京都大学霊長類研究所ウェブサイト掲載の動画(のべ32個体分)を視聴し研究対象とした。さらに情報不足を補うため、専門研究者からフィールドにおけるチンパンジーの行動についての話をうかがった。ヒトの子どもに関しては、 2020年2月に実施した実験のデータを用いた(2~ 10歳、49人分、オニグルミを使用)。研究の過程で、ナッツ割り行動にあたっての両者の姿勢(座り方)、手指の使い方、親子関係(子どもへの親の関与)、石器使用の習熟進度に違いがあることがわかった。このうち座り方に関しては、ヒトがわずかな例外を除いて前傾姿勢をとるのに対し、チンパンジーは例外なく腰を下ろした座位姿勢をとることがわかった。この差に関しては、前肢・後肢比率(Intermembral Index(上腕骨長+橈骨長)× 100/(大腿骨長+脛骨長)の差に起因するものと判断した。手指の使い方に関しては、母指と他の指の長さの比率の差が関係していると考える。親子関係や習熟進度の違いは歴然としている。ヒトの親は子の行動に何らかのかたちで関与するが、チンパンジーは一様に無関心であった。実験の際、ヒトは例外なくわずかな時間でナッツ割りのコツを覚えたが、チンパンジーは習得に一定期間を要するし、習得できないままの個体も存在する。こうした差はヒトとチンパンジーの認知能力や習性の違いに関わると考えるが、さらにデータを集めたうえで改めて考察を行う予定である。 チンパンジーの使用した石器に関しては、京都大学霊長類研究所で実測や写真撮影、観察を行った。チンパンジーは後肢を用いて台石を支えることがあるというが、そのような使い方の特徴が石器の使用痕にもあらわれていることがわかった。

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© 2020 日本霊長類学会
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