抄録
【目的】DNA付着精子の顕微授精(ICSI)によって前核注入(PN)法と同等の効率でトランスジェニック(TG)個体作出が可能であることが報告されている。ICSI法ではMII期卵に外来遺伝子を導入する点がPN法と大きく異なる。このような特徴から、ICSI法では導入遺伝子の組み込みが、PN胚に比して胚発生のより早い時期に起こる可能性がある。その場合、ICSI法で作製された遺伝子導入胚は、導入遺伝子陽性割球と陰性割球が混在する、いわゆるモザイク胚になりにくいとの仮説が成り立つ。この仮説をICSI法によるマウス胚へのGFP遺伝子の導入によって検証することを本研究の目的とした。【方法】ICSI法はPerry ら1999に従い行った。CZB液で凍結融解した精子2~5×105個⁄10µlを25ngのCAG-EGFP(3.0kb)と5分間共培養した後、ICSIに用いた。前核注入には10ng⁄µlのDNAを用いた。ICSI法および前核注入法で作成した胚を桑実期–初期胚盤胞期まで培養し、発生率およびGFP発現率を比較した。両区の蛍光陽性桑実胚をプロナーゼ処理して透明帯を消失させ、その後10µM EDTA添加PBS(-)を用いて個々の割球に分離し、各割球の蛍光を観察した。【結果】ICSI法とPN法により作製した胚の発生率およびGFP発現率は、それぞれ61.5%(59⁄96)対90.6%(116⁄121),(P<0.01)および47.9%(46⁄96)対36.7%(47⁄121)であった。ICSI法で得られた蛍光陽性胚の中で、モザイク胚の占める割合は25.0%(5⁄20)であり、PN法78.9%(15⁄19,P<0.01)に比べて有意に低かった。またICSI法で得られた蛍光陽性胚では、その大半の割球が蛍光陽性を示したのに対し(81.0%,124⁄153) 、PN法では有意に低く56.6%(168⁄297,P<0.01)にとどまった。以上から、ICSI法による遺伝子導入では、モザイク胚が生じにくい事が示された。同時にICSI法により作製された蛍光陽性桑実胚では、高い割合の構成割球が導入遺伝子陽性となることが認められた。