抄録
【目的】哺乳動物における“最初の細胞分化”は,後期8細胞期から桑実期にかけて開始する栄養芽細胞と内部細胞塊への分化である。しかし,“最初の細胞分化”を制御する分子機構は未だ一部しか解明されていない。私達はそれらを制御する遺伝子を同定するために,桑実期前後において発現量が変動する遺伝子のサブトラクションcDNAライブラリーを構築した。そして、このライブラリーのスクリーニングにより同定した新規ホメオティック遺伝子群の全長cDNAのクローニングと,マウス初期胚およびマウス胚性癌細胞における発現解析を行った。【方法】SSH法により,4-8細胞期から桑実期にかけて発現量が増加するcDNAライブラリーを構築した。得られたcDNA断片のうち,転写調節因子様cDNA断片を選定し,RACE法により全長cDNAをクローニングした。さらに,初期胚の各発生段階,および胚性癌細胞株(F9,P19)における発現パターンをRT-PCR法により検討した。【結果】サブトラクションcDNAライブラリーより,機能が不明な新規ホメオティック遺伝子B606を同定した。B606 cDNAの塩基配列情報とRACE法により,B606遺伝子およびB606遺伝子と構造的に深く関連するホメオティック遺伝子AとBの全長cDNAをクローニングすることに成功した。初期胚におけるこれらの遺伝子の発現パターンについて検討したところ,いずれも4-8細胞期から桑実期にかけて発現量が上昇することが判明した。そこで,Egam-1ファミリー遺伝子群(Expressing gene at morula stage)として,Egam-1(遺伝子A),Egam-1N(遺伝子B),Egam-1C(B606)と命名した。初期胚における発現パターンに相反し,胚性癌細胞の未分化状態または分化誘導時におけるEgam-1ファミリーの発現パターンはそれぞれ特徴を有していた。