抄録
【目的】塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)は,in vitroにおいて血管新生やプロジェステロン(P)産生を刺激することが知られており,黄体発育を促進する因子として血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と並び重要なものとされている。しかし,ウシ生体内でのbFGFの黄体発育に対する詳細な役割は分かっていない。そこで本実験では,黄体形成期における黄体内部のbFGFを局所的に抑制し,黄体の形成・機能と血管新生へ与えるその影響を調べた。【方法】本学畜産フィールド科学センターのホルスタイン種経産牛を用いた。実験デザインは,Day1-Day7(排卵=Day1)まで実験区(n=3)にはbFGF抗体を,対照区(n=4)にはウサギIgGを排卵後直ちに1日3回排卵域へ直接投与した。卵巣の形態はDay1-Day8まで毎朝1回,物質投与前にカラードップラー超音波画像診断装置(アロカ SSD-5500)を用いて観察し,同時に採血を行った。Day8の卵巣観察終了後,卵巣を摘出して黄体組織の観察をし,血管新生系およびP合成系の各種mRNA発現はリアルタイムPCR法を用いて測定した。血中P濃度は,EIA法により測定した。【結果】実験区の黄体体積(P<0.01)および血中P濃度(P<0.05)は対照区に比べ有意に抑制された。実験区の黄体の周辺部には正常な黄体と同様の黄色部が存在し,黄体内部にはbFGF抗体が作用したと思われる赤褐色部が認められた。黄色部のmRNA発現には,測定した全ての項目において対照区と有意な差はなかった。赤褐色部では対照区と比較して,3β-HSD,bFGFとFGFレセプター1(FGFR-1)の発現に有意な減少がみられた(P<0.05)。また赤褐色部ではVEGF164が対照区と同程度発現していたにもかかわらず,VEGF120の発現は見られなかった。以上のことから,bFGFは黄体発育過程においてbFGFとFGFR-1,さらにはVEGF120の発現を調節することにより相乗的に黄体内部の毛細血管の血管新生を促進させ,P合成機能だけではなく構造的にも黄体の発育に関与することが示唆された。