抄録
【目的】哺乳類の卵巣における選択的な卵胞退行過程には顆粒層細胞のアポトーシスが重要な役割を果たしている。今回,顆粒層細胞のアポトーシスに関与する可能性のある多くのサイトカインの中で,細胞死受容体を介したアポトーシス制御因子の一つであるBidのブタ卵巣におけるmRNAならびにタンパクの発現変化を調べた。【方法】食肉処理場にて採取したブタ卵巣から実体顕微鏡下で卵胞を切り出し,健常,退行初期および後期に分類した後,各卵胞から顆粒層細胞を単離・調製し,定量的リアルタイムPCR法にてBid mRNAの定量,ウェスタンブロット法によりタンパクの定量を行った。また常法に従って3μmの卵巣パラフィン切片を作製し,cRNAプローブを用いてin situ hybridization法にてBid mRNAの局在を検出した。次にEST cloneよりブタBidのDNA配列を決定し,同定したブタBid遺伝子をリポフェクション法によりKGN (ヒト顆粒層細胞由来), JC410 (ブタ顆粒層細胞由来),KK1 (マウス顆粒層細胞由来) 細胞に導入し発現を確認した。【結果と考察】Bid mRNAは顆粒層細胞にのみ局在がみられ,mRNA,タンパクともに健常卵胞の顆粒層細胞において高く発現し,退行に従い発現が減少していった。このことより卵胞退行に従い,Bidが活性型のtBidに変換されミトコンドリアにアポトーシスを誘導していると考えられる。またブタBid遺伝子はヒトBidと約60%の相同性を示しKGN,JC410,KK1いずれの培養細胞でも発現を確認できたことよりアポトーシスシグナルは種を越えて高く保存されていると考えられる。