抄録
【目的】ウマは典型的な長日繁殖動物であり、日本では春から初夏に雌ウマが発情・排卵を繰り返す。雄ウマも同時期に精巣機能が亢進する。このようなウマの季節繁殖性を考慮して、ウマ生産現場では、人工照明により日照時間を長くして非繁殖期に雌ウマの卵巣機能を賦活する試み、いわゆるライトコントロールが行われている。しかし、ライトコントロールにより雌ウマに早期に排卵を誘起した場合の内分泌学的背景については知見が乏しい。本研究では、人工的に日照時間を延長して雌ウマの排卵を促進した場合の卵巣機能と内分泌学的変化について検討した。【方法】北海道日高地区および栃木県宇都宮市で繋養されていたサラブレッド種非妊娠馬を用いた。実験に際しては、12月20日(冬至)から人工照明(約150ルクス)によって1日の明期を14.5時間、暗期を9.5時間に設定した。対照群は、自然光により飼育しライトコントロールは行わなかった。採血は約1週間間隔で行い、血中プロジェステロン濃度を測定した。【結果】排卵時期について、対照群では、3月中に14頭中3頭 (21.4%)、4月中に14頭中3頭 (21.4%)、5月中に14頭中7頭 (50.0%)、6月中に14頭中1頭 (7.1%)で最初の発情・排卵が観察された。一方、ライトコントロール群では、2月中に25頭中17頭(68.0%)が発情・排卵した。その後、3月中に25頭中7頭(28.0%)、4月中に25頭中1頭(4.0%)に発情・排卵が認められ、ライトコントロールにより明らかな排卵時期の早期化が認められた。血中プロジェステロン濃度は、対照群およびライトコントロール群共に初回排卵以前は低値で経過し、排卵後に周期的な変化を示した。以上の結果から、日本の寒冷地においてもライトコントロールによる日照時間の延長により、明らかに雌ウマの卵巣機能を賦活することが可能である事実が判明した。本研究は、文部科学省COE研究助成(E-1)によるものの一部である。