地域漁業研究
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シンポジウム
兵庫県瀬戸内海区の小型機船底曳網漁業の漁場(水産資源)利用とその管理
田中 史朗
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2006 年 46 巻 3 号 p. 43-63

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抄録

本研究は,兵庫県の小型機船底曳網漁業を事例に取り上げて,広域的漁業管理を確立する上で,一体,何が障害になっているのか。その障害を克服し,広域的漁業管理を構築するために必要な条件にどのようなものがあるのかを実証的に解明したものである。

小型機船底曳網漁業を取り上げた理由は,第1に,兵庫県のみならず,瀬戸内海区を代表する漁業であり,多くの漁業者が生計を立てていること。第2に,能率的漁法であるが故に,協調体制が築かれなければ,漁業者が共倒れになるだけでなく(経済的なダメージを被るのみならず),有用水産資源の枯渇を招き,他の漁業を営む者への影響も甚大で,かつ海の生態系そのものをも破壊してしまうおそれが多分にあること。第3に,内海漁業の中核をなす小型機船底曳網漁業の漁業管理の成功(広域的漁業管理の構築)が,多種多様な漁業の併存と世代間の漁場利用の棲み分けを保障し,漁業者が遍く精神的にも経済的にも豊かさを実感できる協調的・総合的な漁場利用のあり方を決めるフレイムワーク作りの第一歩となる可能性があり,結果として多くの漁業者を残すことにつながると考えるからである。

課題接近のために,以下の視点から分析を試みた。第1に,兵庫県瀬戸内海区の小型機船底曳網漁業の自主管理の実態(取り組みの経緯,内容,熱意,実効性)について言及した。第2に,自主管理がうまく行っているところと,そうでないところとの差異は一体どこに原因があるのかを究明した。

広域的漁業管理制度構築に必要な条件をあげてみると次のようになる。第1に,組織の核となる管理主体とリーダーの存在がある。第2に,広域的な漁業管理制度の枠組みとルール作りがあげられる。第3に,漁業管理を効果あるものにするための措置(管理の実効性を担保するもの)が必要である。その一つがルールの遵守をチェックする監視機関の存在であり,今一つがルール違反に対する制裁措置と統一共販体制の確立がある。最後に,漁業管理をより効果あるものにするための付帯条件がある。それは実効性補強因子とも呼べるものであり,その一つに,仲買人・小売店・消費者の協力がある。これは漁獲サイズ規制・重量規制をより徹底させるためのサポート要因となる。二つには,青年部活動の活性化がある。彼らによる水産資源の中間育成および放流への取り組みが,彼ら自身の水産資源保護意識並びに漁業管理意識を高めていく上で大きな働きをしている。三つには,漁業管理効果の検証がある。漁業管理に対する漁業者の信頼をつなぎ止めておくための重要な因子である。

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© 2006 地域漁業学会
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