地域漁業研究
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46 巻, 3 号
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シンポジウム
  • ―瀬戸内海を中心として―
    日高 健
    2006 年 46 巻 3 号 p. 1-8
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    漁業資源管理は,日本における水産政策の主要課題であるだけでなく,水産研究においても重要な領域の一つである。これまでの漁業資源管理研究の中心は,資源管理型漁業の資源生物学的および漁業経済学的な側面からの研究であった。しかし,漁業資源管理は漁業地理学や民俗学など人文科学的な側面も含んだ多面的な性格を持つものであり,これらの多様な研究分野の成果を総合し,漁業資源管理を全体として把握することが必要である。このシンポジウムでは,漁業資源管理を共有資源の共同利用のあり方と捉えることで従来とは異なる側面を浮かび上がらせることを目的とし,さらに漁業資源管理の集団的ルールに関わる合意形成を共通テーマとして,経済学的側面,社会学的側面,および民俗学的側面からの議論を行うものである。同時に,制度経済学,知識科学,地理情報システムなどによる新たな研究アプローチの導入による射程の拡大を狙う。

  • 有路 昌彦, 髙原 淳志, 千田 良仁
    2006 年 46 巻 3 号 p. 9-27
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は,広域の資源管理が導入された瀬戸内海のサワラ資源回復計画を対象に,経済学的な視点から資源回復計画の成功要因と課題を明らかにすることで,今後の資源管理に資する情報を提供する。

    最初に,瀬戸内海サワラの財としての性質を価格関数分析により明らかにした。その結果瀬戸内海のサワラ漁業の市場戦略としては,サゴシの漁獲をできるだけ減らし,サワラの漁獲量を増やすことが価格変動リスクの面で望ましい,ということが示唆された。

    サゴシよりサワラの漁獲割合が多くなるような資源管理を行う場合,サワラは漁場・時期・組成に地域差があるので,一律の漁獲制限では利害関係者間に不均衡が生じる。

    そのため,規制による一時的な減収というリスクがある中で,経営安定資金が合意形成に貢献したと考えられる。

    その経済学的な意味を,リスク理論と取引費用論を元に明らかにした。その結果は,次の2点に要約される。

    • 資源回復計画において所得補填が行われているが,その補填額は経済学的にみて妥当である。

    • 資源回復計画の実施内容は,合意形成に伴う取引費用を削減する効果を持つものであった。

    以上の分析から,サワラ資源回復計画は,我が国の共同体的資源管理に有利な資源管理の方法であることが明らかになった。特に,具体的な目標設定による企業的管理と経営安定資金の存在が,重要である。

  • 牧野 光琢
    2006 年 46 巻 3 号 p. 29-42
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    制度経済学とは,法学と経済学の手法を利用して制度に関する研究を試みる学問であり,経済活動における人と人との関係に重点を置く。そこでは制度の効用は,取引費用を節約し,インセンティブ・メカニズムを提供すると共に外部効果を抑え,協力の条件を作り出すことにある。水産資源は1) Subtractability(あるいは競合性)があり, 2)潜在的利用者を排除するのにコストがかかる,という二つの性格を有する資源である。これを共有資源(Common Pool Resources: CPR)として定義し,その持続的・効率的利用を可能とする制度の性格,制度自体の持続性,柔軟性,公平性等を考察するアプローチを,本稿では制度経済学的コモンズ論とする。本稿では資源回復計画を共有資源管理制度の一つとして位置づけ,コモンズ論のアプローチに基づく解釈を試みた。

    資源回復計画制度は,我国の資源管理型漁業の手法を国家政策として推進するものである。漁業者協定制度を導入し,広域漁業調整委員会の設置により広域資源分布,県間・大臣―知事許可など漁業種類間調整への対応を可能としている。また資源回復目標(数値目標)の設定とTAEの導入により,科学的根拠と検証可能性が明確となる。さらに各種の支援措置(予算措置)により,漁家経営への影響も勘案されている。この新制度により,国による広域で強力な執行や,明確な管理目標による説明責任の明確化が可能となり,漁業者協議会からのボトムアップと,その国家による公的な執行体制が組まれた。

    今後の課題として,ここでは資源回復・市場条件・資金調達の三つを挙げる。水産資源の持続的利用に関する国及び漁業の責務として,資源回復目標と計画の意思決定・執行における一層の透明性・科学性の確保や,対象漁業種の構造改善(中核的漁業者の育成),順応的管理の視点が重要である。また,資源が回復したときにどのような需要があるのかという間題は,計画が漁家経営へ与える影響を根本的に規定し,水産物の安定的な供給の確保に関わる間題である。市場条件を見据えた管理計画が策定されるべきである。最後に資金調達は,支援措置資金を誰が負担するのかという問題である。各計画(5カ年)の終了後も見据え,計画遵守のインセンティブ構造も踏まえた考察が必要である。他の計画対象種・漁業種も含めた包括的な資金調達のための理論構築が求められる。

  • 田中 史朗
    2006 年 46 巻 3 号 p. 43-63
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は,兵庫県の小型機船底曳網漁業を事例に取り上げて,広域的漁業管理を確立する上で,一体,何が障害になっているのか。その障害を克服し,広域的漁業管理を構築するために必要な条件にどのようなものがあるのかを実証的に解明したものである。

    小型機船底曳網漁業を取り上げた理由は,第1に,兵庫県のみならず,瀬戸内海区を代表する漁業であり,多くの漁業者が生計を立てていること。第2に,能率的漁法であるが故に,協調体制が築かれなければ,漁業者が共倒れになるだけでなく(経済的なダメージを被るのみならず),有用水産資源の枯渇を招き,他の漁業を営む者への影響も甚大で,かつ海の生態系そのものをも破壊してしまうおそれが多分にあること。第3に,内海漁業の中核をなす小型機船底曳網漁業の漁業管理の成功(広域的漁業管理の構築)が,多種多様な漁業の併存と世代間の漁場利用の棲み分けを保障し,漁業者が遍く精神的にも経済的にも豊かさを実感できる協調的・総合的な漁場利用のあり方を決めるフレイムワーク作りの第一歩となる可能性があり,結果として多くの漁業者を残すことにつながると考えるからである。

    課題接近のために,以下の視点から分析を試みた。第1に,兵庫県瀬戸内海区の小型機船底曳網漁業の自主管理の実態(取り組みの経緯,内容,熱意,実効性)について言及した。第2に,自主管理がうまく行っているところと,そうでないところとの差異は一体どこに原因があるのかを究明した。

    広域的漁業管理制度構築に必要な条件をあげてみると次のようになる。第1に,組織の核となる管理主体とリーダーの存在がある。第2に,広域的な漁業管理制度の枠組みとルール作りがあげられる。第3に,漁業管理を効果あるものにするための措置(管理の実効性を担保するもの)が必要である。その一つがルールの遵守をチェックする監視機関の存在であり,今一つがルール違反に対する制裁措置と統一共販体制の確立がある。最後に,漁業管理をより効果あるものにするための付帯条件がある。それは実効性補強因子とも呼べるものであり,その一つに,仲買人・小売店・消費者の協力がある。これは漁獲サイズ規制・重量規制をより徹底させるためのサポート要因となる。二つには,青年部活動の活性化がある。彼らによる水産資源の中間育成および放流への取り組みが,彼ら自身の水産資源保護意識並びに漁業管理意識を高めていく上で大きな働きをしている。三つには,漁業管理効果の検証がある。漁業管理に対する漁業者の信頼をつなぎ止めておくための重要な因子である。

  • ―秋田県のハタハタ資源管理の取り組みから―
    末永 聡
    2006 年 46 巻 3 号 p. 65-77
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    秋田県では,1991年度にハタハタ漁獲量が過去最低を記録したことを受け,全国に先駆けて,全県の漁業者が資源の回復を目指し,1992年に資源管理協定である「はたはた資源管理協定」を締結して,自主規制により3年間にわたってハタハタの全面禁漁を実施した。その効果があらわれ,ハタハタ資源量は順調に増加傾向にあることが確認されたが,1995年に漁を解禁した後も,漁業者は自主的な資源管理の取り組みを継続しており,ハタハタ資源の永続的な利用を目指している。本報告では,秋田県のハタハタ資源管理の取り組みに関して,そこで行なわれた合意形成に注目して詳細な検討を行なうとともに,知識科学の視点から分析を行なうことによってその有効性について示唆した。

    分析の結果から,秋田県のハタハタ資源管理に代表されるような,地域漁業における漁業者間あるいは漁業者と行政間の合意形成を包含する取り組みについては,互いの異なる知識体系を通訳し,知識共有を促進する役割である知識通訳者の存在が重要であることや,漁業者などの利害関係者の知識を政策に活用することによって生じる知識の正当化に関する効果と諸問題等について考察を行なった。

  • ―大阪府岬町小島を事例とした民俗学的接近―
    増﨑 勝敏
    2006 年 46 巻 3 号 p. 79-98
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は,沿岸海域において一本釣り漁業と遊漁船業を兼業する漁業者の生業活動について,おもに漁場・資源利用の場面における意思決定と合意の諸相にかんして検討するものである。事例としては大阪府岬町小島の漁業者の漁撈活動を取り上げる。

    小島の遊漁船業は大正時代末に開始され,時代的な継続性を有する。また,小島のみならず,この地域の遊漁船業は南海鉄道の淡輪遊園開発の一環として開始され,地域的な広がりを持つ。

    現代の遊漁船業と,漁法的に共通する一本釣り漁業の魚種別月別漁獲量を比較すると,対象魚種とその漁期にかんして多くの部分で共通している。いっぽう,年間漁獲量をみると,両者で共通する魚種の,漁獲量全体に占める割合が大きく異なっている。ここには漁獲対象選択に際して,漁業者のなかで異なった戦略に基づいた意思決定がなされていることか反映している。

    漁場利用にかんしては,漁船・遊漁船にかかわらず慣習的な優先利用のルールが暗黙に存在するほか,漁船と遊漁船では漁船の操業を優先する慣習が認められる。さらに遊漁船業と漁業を兼業する生業形態が大半を占めるなか,漁船と遊漁船との間でトラブルが生じた場合,「お互いさま」という言葉に象徴される「相互了解性」による合意のなかで回避される構造がみられた。ここには前述の小島の遊漁船業が持つ歴史的要因とそれにかかわる社会的要因が作用している可能性がある。

    小島漁業協同組合では大阪府下で初めて間伐材を利用した魚礁を沈設したが,その導入の合意と決定には,漁業者のもつ漁撈にかかわる民俗的知識が寄与している。また,沈設場所の決定についても同様であった。

  • 河原 典史
    2006 年 46 巻 3 号 p. 99-110
    発行日: 2006/02/15
    公開日: 2022/10/11
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では,漁場利用に関する合意形成への民俗的知識を再認識する必要性を説いた。その場合,民俗的知識の記録化をめぐって,「聞き書き」というオーラルデータの文字データ化という民俗学的手法の有効性は決して看過できない。時間と空間のスケールを鑑みながら空間データを扱う地理学的アプローチは,実証的な地図表現をともなって,地域への提言もなされよう。その表現方法は,2次元の紙媒体から,3次元へのバーチャル化へと大きく変化しつつある。地理学的技法の進展にともなって,斯学からは「過去から学ぶ」「現場から学ぶ」「人から学ぶ」ための議論をいままで以上に提供するはずである。

    本稿で提示した方法論的試案は,漁場認識やその合意に関する実証的な説明において,従来の方法の転換をうながす可能性を秘めている。

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