2008 年 48 巻 3 号 p. 31-50
近年,地域の活性化に繋がると思われる地域流通が重要視されつつある。しかし,地域の水産物流通の担い手である鮮魚小売店は,70年代以降のスーパー進出によって,店舗の数が大きく減少した。しかし,他方では,さまざまな経営の対応によって鮮魚小売業が存在している場合もある。こうして生き残った鮮魚小売店は,厳しい競争環境の中で,どのような対応を行ってきたのか。また,経営,業態がどのように変化してきたのかなどに関して,不明な点が多い。自給率の低さ,魚食文化の喪失などが大きな社会問題として注目される今日において,地域食文化の伝承,魚食に関する知識,技能の伝達の担い手としての役割,また,地域流通の担い手としての新たな位置づけにある鮮魚小売店の実態把握が重要な課題となっている。換言すれば,今日,盛んに言われている「地産地消」の新たな視点での地域の鮮魚小売店の見直しである。
本研究は,地域流通の担い手である鮮魚小売店の展開と,その地域のおかれた社会的・経済的条件,環境に焦点をあて,鮮魚小売店の経営活動の実態把握を通じて,彼らを支える地域的条件,および「地産地消」との関連性について明らかにすることを課題とする。そのため,「地産地消」の実現性が高く,また,地域特性がより顕著に現れる可能性が高いと思われる愛知県南知多町の「魚ひろば」と一色町の「さかな村」を研究対象とする。