2009 年 49 巻 3 号 p. 19-34
水産行政における多面的機能の整理の歴史を明らかにした。最初の整理は,1987年までさかのぼることが出来る。「漁業問題研究会中間報告」において,我が国水産業の役割として,(1)「水産物の安定供給の役割」,(2)「所得・雇用機会の提供の役割」,(3)「海洋環境保全の役割」,(4)「海の文化の継承の役割」,(5)「海洋性レクリエーションの場の提供の役割」の5項目を初めて整理した。この後に続く漁業白書・水産白書での整理も追ってみたが,かなりの部分が最初の整理において把握されていたことがわかる。
水産行政における多面的機能に関連する施策の歴史を明らかにした。多面的機能の経済評価は1996年に最初に行われたが,2001年に水産基本法で多面的機能が明記されるまでは,組織的な対応は不足していた。多面的機能に関する交付金制度は農林業の後追いであるが,2005年に離島漁業再生支援交付金が始まり,2009年に環境・生態系保全活動支援制度が開始される予定である。後者の類似制度であり,先行している農地水環境保全向上対策には個別農家に配分可能な交付金を手当てする,「先進的営農活動支援」という制度があるが,漁業においては同様な交付金は検討されていない。このため,漁業・養殖業の一部分について,外部不経済を認めた上で,外部不経済の削減に伴う費用の増加あるいは収入の減少を補填するための交付金の創設について検討を行った。