2010 年 50 巻 3 号 p. 29-52
現在の水産物「ブランド」化事業は、国内水産物市場の全体的な拡大や水産業の総体的な経営向上をもたらすものではない。あくまで産地間競争のツールであり、縮小する市場を奪い合うライバルを切りすてるための武器である。その点で個別経営の生き残り戦略においては合理的な存在であるが、業界全体がそこに向かって進んでいけるような性格のものでは全くないであろう。個別「ブランド」化事業の効果や成否という微視的視野に立つ限り、水産物流通における「ブランド化」現象の本質は理解し得ない。水産商品の本質的理解と、それとの整合性を失いつつある水産物流通の総体的変容を理解した上で、そこにおける「ブランド」化の意義を冷静に評価する視点こそ必要ではないのか。