2010 年 50 巻 3 号 p. 87-98
水産物のブランド化が,全国各地で推進されている。この状況について,水産物の商品特性や水産業の構造的変容との関係を踏まえて,個別経営や産地のみならず水産業全体への影響を検証する必要がある。
このため本稿は,水産物のブランド化について,産地と水産業全体の両視点から捉えて,個別経営体の経営不振や産地の衰退,あるいは変容する水産物流通や消費者ニーズに対応するツールとして,どのような役割や意義を果たしうる存在なのかを批判的に検証している。
この結果,ブランド化の内実として,鮮度保持や販路拡大,情報提供など多様な取り組みが併存していることから,ブランド化の方向性を検証する際には,これらを整理して類型化することが求められること。また,分析視角として,経営学的に個別経営体や産地の視点からの捉え方と,流通経済学的に水産物流通の視点からの捉え方を整理することが重要なことを明らかにしている。そして,水産業の有する課題の中で,ブランド化で対応可能な部分と不可能な部分の仕分けをして,前者については方法論の検証,後者については対置させるべき方策の検討が必要なことを提案している。