地域漁業研究
Online ISSN : 2435-712X
Print ISSN : 1342-7857
論文
近海カツオ一本釣り漁船乗組員のライフヒストリー
静岡船への乗り組みを行う高知県漁業者の事例から
増﨑 勝敏
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ジャーナル オープンアクセス

2012 年 52 巻 2 号 p. 39-63

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抄録

本稿では,高知県高岡郡中土佐町久礼に在住する漁業者が,静岡県籍の近海カツオ一本釣り漁船ST丸に幹部乗組員として乗り組んだ事例を取り上げる。具体的には,ふたりの漁業者のライフヒストリーを民俗学的な見地から叙述し,彼らが同船に漁撈長として乗り組むに至る経緯を検討した。

この論文で明らかにしたのは,つぎの諸点である。

第1に指摘したのは,ST丸の経営にかかわる,久礼の漁業者の位置づけである。同船は静岡県に船籍を置きながら,乗組員の多くを久礼の漁業者が占めてきた。そのことにより,漁船の運用はもっぱら彼らの手にゆだねられていた。さらに,同船は一時期から実質的な根拠地を久礼に置いた。同船の経営は船主が久礼の漁業者に委託していたのである。

つぎに述べたのは,ここで取り上げたふたりの漁業者が,ともに個人漁を営む漁家の出身である点である。彼らは雇員として漁船に乗り組み,自らの力量で幹部乗組員へと昇格していった。その際に活用したのは,海技資格や,漁撈にかかわる技能といった能力であった。

第3に挙げたのは,ふたりの漁業者がこの漁船へ乗り組むきっかけである。彼らがST丸に乗り組む際には,さまざまな人的ネットワークを活用している。それは,血縁や地縁にかかわるものである。

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© 2012 地域漁業学会
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