地域漁業研究
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論文
滋賀県におけるアユの種苗全国供給と養殖業の地域的展開
井村 博宣
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2013 年 53 巻 3 号 p. 25-45

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抄録

本稿では,滋賀県におけるアユ種苗全国供給とアユ養殖業の地域的展開を一体的に捉えたうえで,競合産地との関係や自然・社会条件との関わりに留意しながら検討した。

コアユ(琵琶湖産アユ種苗)の全国供給は,畜養・移殖試験による大型化(種苗適正)の確認,長距離輸送技術の確立や需要の増大を受けて,1930年以降県配給事業として本格的に始められた。これに伴い滋賀の漁業はコアユ漁が中心となり,全国の河川漁業は琵琶湖産アユ種苗の放流に支えられた資源管理の下で発展してきた。

コアユ採捕漁家の中には,配給実務の畜養作業を通して飼育技術を培い,アユ養殖業を始める者が現れた。高度経済成長下でアユ需要が急増すると,安曇川平野では北船木の漁家層を中心として本格的な産地形成が進んだ。しかし第一次石油危機以降,生産費の高騰と魚価の低下が生じ,産地間競争が激化した。安曇川平野は,水条件の不利性から生産費が高くつき,徳島・和歌山との産地間競争で後れを取り,種苗配給業へ撤退した。

全国的なアユ養殖業の急成長は,琵琶湖産アユ種苗の全国供給を発展させたが,需要時期の違いから,河川放流用につくられた配給制度の崩壊を助長した。またコアユの冷水病感染は全国的蔓延の一因となり,琵琶湖産アユ種苗の占有率はかつての約70~80%から約25%に激減した。その影響は,滋賀県のみならず全国の河川漁業・遊漁・養殖業にも及び,大きな社会問題となっている。

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© 2013 地域漁業学会
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