日本のサケ産業は,ふ化放流技術の発展を基盤に成長・発展してきた。ふ化場は来遊してきたシロザケ(Oncorhynchus keta;以下,サケ)を親魚として捕獲し,ふ化・飼育した稚魚を放流する。これがサケのフード・システムの出発点になる。東日本大震災で被災した岩手県のふ化場では,復興過程を経て施設・機材が一新された。だが,サケの来遊状況は震災前から不安定に推移しており,大型定置網による水揚げは振幅が大きい。サケ産業の復興を検討する際,健苗な稚魚を作る技術力が維持されているか,ふ化場の運営を支える経済循環が機能しているかも検討しなければならない。本論文は,日本のサケ産業が抱える問題を,ふ化放流事業に焦点を絞ってその持続性を検討した。岩手県沿岸の8つのふ化場を対象に調査を行い,ふ化放流事業が抱える問題点を明らかにした。事例分析を通じて,独立採算でふ化場を運営するか,漁協の経営基盤を強化するなかでふ化場に対する支援を増やすかが問われている。