抄録
目的 新規に合成されたフラン融合性四環性化合物(DFs)には抗ウイルス作用があることが判明し、注目されている(Matsuya et al. J. Org. Chem., 69, 7989, 2004)。本研究では、これらのDFsにアポトーシスの増強作用があるか否かについて、検討した。
材料と方法 細胞にはヒトリンパ腫細胞株のU937を用いた。アポトーシス誘導因子として、温熱処理(44 oC,20分)あるいはX線照射(5 Gy)を用いた。アポトーシスの関連指標として、核の形態学的変化、DNAの断片化、ホスファチジルセリンの細胞膜表面発現、ミトコンドリア膜電位(MMP)の低下、スーパーオキシドの産生、関連蛋白質の変化、細胞内カルシウムイオン濃度の変化等について検討した。
結果 毒性のない濃度においてDFsによる放射線誘発アポトーシスの増強は認められなかったが、温熱誘発アポトーシスを増強する化合物があり、DF3が最も効果が高かった。DF3はアポトーシス指標を濃度依存性に増強するとともに、MMPの低下、カスペース-8、-3の活性化、Bidの活性化およびシトクロムcの遊離の増強をした。さらに、DF3は単独処理で早期に細胞内スーパーオキシド産生を増強し、その後、過酸化物質の一過性の増強を誘発することが判明した。
結論 DFsによる温熱誘発アポトーシスの増強機構として、細胞内酸化ストレスの増加およびミトコンドリア経路の活性化が関与することが示唆された。