抄録
突然変異は、その生成過程から損傷誘発突然変異と自然突然変異とに大別される。環境因子の多くはDNAに損傷を与え、細胞は損傷を認識し、その軽減を計る。しかしながら、最終的に損傷が残存し、それらが突然変異につながる。通常のDNA複製酵素はこの様な損傷部位では複製反応を止めてしまう。しかし、多くの生物は、TLS (Trans Lesional Synthesis) DNA複製酵素を持っており、損傷部位で通常のDNA複製酵素に入れ替わって、このTLS複製酵素が働く。TLS複製酵素は、間違った塩基を導入し易いため、損傷部位で高頻度に突然変異が導入される。我々はこの損傷誘発突然変異に着目しTLS複製酵素の変異体をメダカで作成し、「突然変異」の個体・組織レベルでの解析系を確立することを目指している。メダカは、我が国で開発された実験モデル生物であり、マウス、ショウジョウバエに匹敵する近代モデル生物として変身を遂げつつあるが、遺伝子ノックアウトの手法が確立されていない。そこで我々は、Tilling法を用い、標的とする遺伝子の変異体を自由に作成する技術を確立することを試みた。Tilling法とは、Targeted Induced Local Lesions IN Genomeの略であり、ある程度の遺伝学が可能な実験モデル生物を対象に、目的とする遺伝子の変異体を自由に作成する方法として近年開発され、シロイヌナズナやゼブラフィッシュでその有用性が報告されている。我々は、5771変異個体分の凍結精子とゲノムDNAのライブラリーを作成しTLS複製酵素の一つであるRev1遺伝子についてスクリーニングを行った。20,727 アンプリコン、10,754,677 bpスクリーニングし2個のナンセンス変異体と15個のミスセンス変異体を得ることができた。今後これらの変異個体について詳細な解析を進めていく。