抄録
【はじめに】甲状腺組織は、放射線被ばくにより癌が高頻度に誘発される。従来放射線影響を調べるためのin vitro実験では、甲状腺濾胞細胞単独培養が用いられてきた。しかし組織は、上皮細胞や間質細胞など多種の細胞から形成されており、相互に影響を与え合っている。そこで今回、混合培養による放射線損傷への影響について検討した。【材料と方法】甲状腺組織のin vitroモデルとして、ヒト初代培養甲状腺細胞とヒト線維芽細胞との混合培養を用いた。それぞれの細胞の単独培養と混合培養での放射線影響を、DNA二重鎖切断の指標であるリン酸化H2AXを指標として免疫蛍光染色法により比較検討した。【結果】混合培養、単独培養とも、γ線照射後にリン酸化H2AXの数は急増し、その後時間とともに減少した。また、いずれにおいても線量効果関係が見られた。しかし、混合培養におけるリン酸化H2AXの数は、単独培養よりも有意に少なかった。混合培養におけるリン酸化H2AXの減少に関わる機構を明らかにするため、ギャップ結合を阻害する薬剤としてLindaneを用いた。Lindaneを加えることで、混合培養、単独培養双方ともリン酸化H2AXの数が増加したが、混合培養では、単独培養ほど増加がみられなかった。このことから、ギャップ結合は混合培養におけるリン酸化H2AXの減少に関わる主要な経路ではないと推測された。【結語】混合培養時にγ線誘発リン酸化H2AXの減少がみられ、DNA二重鎖切断の減少が生じたことが示された。また、ギャップ結合が阻害されるような状況下では、通常の状態よりもDNA損傷を生じやすいことが示唆された。混合培養におけるリン酸化H2AX減少の原因としては、細胞間相互作用に関する液性因子の影響などが推測され、今後更に実験を進める予定である。