抄録
紫外線はDNA上の隣接するピリミジン塩基間でシクロブタン型ピリミジン2量体及び(6-4)光産物と呼ばれるDNA傷害を形成し、致死や変異誘発の原因傷害となる。また、植物種によっては生育に抑制的に作用することが知られ、その克服は将来の食料資源確保の方策の一つになるかもしれない。太陽光下で生育している植物は連続的に紫外線に曝されており、修復系が作用しているとはいえDNA傷害が多く生じていると考えられる。DNA傷害が生育抑制に作用しているなら、その機能を増幅させることによって生育抑制が緩和されることが期待され、紫外線に感受性の高い作物の収量増加につながる。紫外線によって形成されるピリミジン二量体のうちその約7割がCPDと言われている。光回復はこの傷害に対する有効な修復機構である。そこで、この光回復機能を増加することによって紫外線による生育抑制を軽減できないか調べた。
我々がクローニングしたホウレンソウCPD光回復遺伝子を、植物細胞内で高発現になるよう形質転換用プラスミドpBI121のCaMV 35S プロモーターの下流に挿入しプラスミドpSpCPDPR3を作製した。アグロバクテリウムを用いてこれをシロイヌナズナへ導入し、いくつかの形質転換体を得た。形質転換体のゲノムDNAを鋳型にしたPCRにより目的遺伝子の導入を確認し、さらにRT-PCR解析により実際に導入遺伝子が発現していることも確かめた。UV-B照射による生育抑制の程度を光回復遺伝子導入個体と野生型とで比較したところ、形質転換体の生重量の減少が野生型に比べて小さいことが示された。CPD光回復遺伝子を新たに導入することで植物の紫外線耐性が増強される可能性が示され、光回復が植物の紫外線防御に有為な役割を果たしていることが示唆された。