抄録
DNA二本鎖切断は放射線によって誘発されることが知られている。DNA二本鎖切断損傷修復時にはDNA末端をプロセシングするために、MRE11などのヌクレアーゼ活性を持つたんぱく質が関与することが知られている。また、DNA損傷に伴うチェックポイント制御活性にもMRE11のヌクレアーゼ活性が必要であると報告されている。それ故、今回我々はヌクレアーゼ阻害剤を用いて、DNA損傷応答への影響を検討した。DNA二本鎖切断発生時にはDNA損傷部位でヒストンH2AXのリン酸化依存的、NBS1/MRE11/Rad50複合体、MDC1などのDNA損傷応答因子が早期にフォーカスを形成することから、最初にこれらフォーカス形成に対する阻害剤の効果を検討した。その結果、リン酸化H2AX(γH2AX)、NBS1、MDC1、リン酸化ATMのフォーカス形成が阻害されていた。しかし、H2AX、ATMのリン酸化をウェスタンブロットで検討するとDNA損傷に伴うリン酸化は正常に起こっていたことから、ヌクレアーゼ阻害剤はATM依存的リン酸化には影響せずにフォーカス形成のみを抑制することが考えられる。次に放射線誘導細胞死に対する阻害剤の効果を検討すると、IR照射後の生存率は正常マウス細胞ではわずかな上昇が見られたがDNA修復因子Ku70のノックアウトマウス細胞では顕著な生存率の回復がみられた。DNA二本鎖切断修復には相同組換(HR)と非相同末端結合(NHEJ)があり、Ku70はNHEJに機能していることから、阻害剤処理によってDNA修復のもうひとつの経路であるHRがKu70ノックアウト細胞で増強されている可能性が考えられ、DR-GFPアッセイによって検討中である。