抄録
放射線などにより、ゲノムDNAは二重鎖損傷(DSBs)を生じる。生物はこのようなDSBsを直ちに検知、認識することで細胞周期チェックポイントを活性化し、損傷DNAの修復を行う。このようなDNA損傷応答の活性化には近年、ヒストンH2AXが関与していると考えられている。H2AXはDSBsの発生に伴い早期にリン酸化され、このリン酸化がDNA損傷修復タンパク質のフォーカス形成に重要である。H2AXは放射線高感受性やゲノム不安定性を示すナイミーヘン症候群、毛細血管拡張性運動失調症の原因遺伝子であり、DNA損傷初期応答に機能するNBS1、ATMと複合体を形成し、DNA損傷認識に重要な役割を持つと考えられる。そこで今回、H2AXのDNA損傷応答の活性化における役割を明らかにするために、H2AX複合体の全容と機能の解明を試みた。GST-tagged H2AX、GST-tagged H2AX(S139E)融合タンパク質を利用したpull-down法で培養細胞抽出液からH2AXと結合しうる候補タンパク質群を分離し、質量分析計で解析した結果、複数の候補タンパク質を同定した。その中で、我々は最近p53との関係が報告されたnucleolinに注目した。nucleolinは主要な核小体タンパク質で、リボソームの生合成の調節やRNA binding proteinとしてrRNAのプロセシングに必要とされることが知られている。そしてさらに、nucleolinはDNA損傷に応答して、核小体から核全体に拡散し、DNA複製ストレスにおける損傷応答に重要なRPAと結合する。これらの結果から、H2AXとの機能的な関連も考えられ、本研究ではnucleolin siRNAを用いたノックダウン実験を行った。その結果、H2AXのリン酸化に影響を及ぼすことからnucleolinはDNA損傷においてH2AXと機能する可能性が示唆された。