抄録
【目的】Ku70タンパク質は、DNA依存プロテインキナーゼ(DNA-PK)のサブユニットとしてDNAの2本鎖切断(DSB)修復に重要な役割を果たしていることが知られている。私共は、正常ラットの線維芽細胞では、70%以上のKuタンパク質が細胞質に存在し、放射線照射後核へ移行し、1時間以上核内に保持されるのに対し、DNAのDSB修復に欠陥のあるLECラット線維芽細胞では、放射線照射後Kuタンパク質は一旦核に移行するが、速やかに細胞質に戻ることを報告し、Ku70タンパク質が放射線照射後核内に維持されることがDNAの2本鎖修復に重要であることを示した。一方、ヒト細胞では非照射細胞でKuタンパク質は核内に主として存在していることが示されている。本研究はヒトをはじめとする霊長類とその他種々の動物種におけるKuタンパク質について細胞内の存在位置を解析し、放射線照射後の細胞内の移動がDNA修復にどのように影響するかについて検討することを目的とした。
【材料と方法】ニホンザルおよびゾウについては初代培養線維芽細胞を用いた。ヒト(HEK293)、ウマ(E.Derm)など霊長類4種、その他の哺乳動物細胞10種類は株化細胞を用い、Kuタンパク質の細胞内における局在性の解析を行った。固定した細胞を抗Ku70抗体およびFITC標識IgG抗体と反応後、レーザー共焦点顕微鏡を用いて観察した。画像の再構成と蛍光量の定量解析は、顕微鏡付属の解析ソフトを用いて行った。
【結果と考察】ヒト、ニホンザルなどの霊長類の細胞ではKu70タンパク質は非照射細胞では主として核に存在し、照射前後で細胞内における存在位置の変化は認められなかった。一方、ゾウなどの霊長類以外の細胞では、非照射細胞ではKu70タンパク質は主として細胞質に存在しており、照射後核内へ移動することが確認された。Kuタンパク質の細胞内の存在位置の違いが放射線照射によるDNAのDSB修復にどのように影響するかについて現在、解析中である。