抄録
ウェルナー症候群(WS)原因遺伝子産物であるWRNタンパク質は、DNAヘリケース及びエキソヌクレース活性を示すが、生体内での機能の詳細は不明である。そこで本研究は、WRNタンパク質のテロメア維持機能における役割を明らかにするために、WS細胞におけるテロメアの安定性について調べた。WS細胞は、老化マーカーであるSA-β-gal陽性比率が少ない時点で、二動原体染色体出現頻度が正常細胞より10倍程高い値を示した。このことは、WS細胞では恒常的にテロメアが不安定化していることを示唆している。そこで、WS患者由来線維芽細胞を用いてテロメアFISHシグナルを解析したところ、シグナル異常として増加(extra telomere signal: ETS)と消失(loss of telomere signal : LTS)の2種類があり、WS細胞では正常細胞に比べてETS及びLTSの頻度がどちらも約2倍高いことが分かった。ETSは過酸化水素処理に鋭敏に反応して増加することから、酸化ストレスによって誘発される現象であると考えられる。次に、リン酸化ATMフォーカスとテロメアFISHシグナルを同時に検出して解析したところ、テロメアに局在するリン酸化ATMフォーカスは、正常細胞で0.02%~0.5%であり、また、WS細胞で0.2%~0.3%であることが分かった。この結果は、ETSの細胞当りの頻度が正常細胞で10%~13%、WS細胞で20%~23%であることを考慮すると、ETSがDNA二重鎖切断によって生じるものではないことを示している。本研究の結果は、WS細胞ではテロメア構造が細胞内酸化ストレスに対して脆弱性を示し、不安定化しやすいことを示唆している。したがって、WRNタンパク質は細胞内酸化ストレスによる障害からテロメアを保護する機能を有すると考えられる。