抄録
【目的】我々は天然放射性鉱石を用いて温泉を模擬し,様々なパラメータ(鉱石の粒径,水温,超音波振動を与える時間,水素イオン濃度(pH)など)が放射性核種の溶出率に与える影響を調べてきた。今回,放射性鉱石自体の特性を明らかにするため,鉱石が何から構成されているかを調べ,構成化合物と溶出放射性核種の関係について検討した。
【方法】バドガスタイン関連施設の鉱石(バドガスタイン鉱石)の塊を粉砕し粉末状にしたもの,岡山大学医学部三朝医療センター・ラドン高濃度熱気浴室の源泉泥(三朝源泉泥)を乾燥した後ふるいにかけ,粒径500μm以下にしたものを試料に供した。各々の試料の放射能を高純度ゲルマニウム検出器により測定した。また,粒径の等しい各々の試料を溶液に入れて放射性核種を浸出させ,浸出した放射性核種の放射能を測定した。各々の試料の元素分析とX線回折による結晶構造解析を行い,鉱石に含まれている化合物を同定した。
【結果】バドガスタイン鉱石の放射能は12 Bq/g,三朝源泉泥の放射能は2.1 Bq/gで,主にウラン系列が含まれていることがわかった。しかし,溶出した放射性核種の放射能はバドガスタイン鉱石からよりも三朝源泉泥からのものが高いことがわかった。元素分析とX線回折の結果,バドガスタイン鉱石には石英と白雲母が,三朝源泉泥には石英と長石が含まれていることがわかった。
【考察】バドガスタイン鉱石では白雲母にカリウムが含まれ,そのイオン半径がラジウム等の放射性核種と似ていることから,カリウムが放射性核種と置換して放射能を含有していると考えられる。三朝源泉泥では長石がアルカリ金属を含むことから,アルカリ金属と放射性核種が置換していると考えられる。各々の鉱石によって放射性核種の溶出の様子が異なるのは,鉱石に含有されている化合物が異なり,化合物と溶液の相互作用が異なるためであると考えられる。