抄録
DNAが電離放射線で照射されると不正常な修飾塩基やDNA鎖の切断(SSBやDSB)、DNA残基と核タンパクのクロスリンクなどが生じることはよく知られている。これらの損傷は主としてヒドロキシラジカル(OHラジカル)によって引きおこされると考えられている。
DNAの近傍で発生したOHラジカルは主にDNA残基と反応するが、その一部はDNAを構成する糖鎖やリン酸基を攻撃することによってSSBやDSBが生じる。DSBは修復されにくいため細胞死や突然変異、染色体異常、ゲノムの不安定化など放射線による傷害の原因となっている。このため放射線によるDSBの生成機構を解明することはきわめて重要な研究課題である。
近年われわれは蛍光顕微鏡によって長鎖DNAの高次構造を直接観測してきた。具体的にはポリアミン化合物などを添加することによって、コンパクトにおりたたまれたグロビュール状態やコイル状態など長鎖DNAの高次構造をコントロールできるようになった。
今回われわれはT4 DNA(166 Kbp)の希薄水溶液を放射線照射して、DNAの切断が高次構造とどのように関係するのか検討をおこなった。その結果グロビュール状態とコイル状態で、放射線によるDSBの生成量に明確な差があることがわかった。