抄録
同一吸収線量を与えた場合、重イオンビームはX線やガンマ線と比較してより深刻なダメージを細胞に与える。一方、プロトンビームはX線やガンマ線とほぼ同程度のダメージしか与えない。このような作用の相違は、粒子の通過経路上に付与されるエネルギーの分布パターンの違いによるものと考えられている。重イオンのトラックに沿って生成される細胞障害の密度はプロトン、X線、ガンマ線よりも高い可能性がある。
電離放射線のようなDNAの2重鎖切断(DSB)を引き起こす刺激を細胞に与えると、核内にリン酸化されたヒストン2AX(γ-H2AX)のスポット、いわゆるフォーカスが形成される。γ-H2AXはMRE11/Rad50/NBS1複合体、Rad51、Ku70、DNA-PKcsといったDSB修復タンパク群のための足場を提供するものと考えられている。DSBを誘起するような刺激を与えると、わずか数分のうちにDSBが生じた位置の周辺でセリン139の位置でH2AXがリン酸化される。それゆえ、γ-H2AX フォーカスの形態は粒子の通過経路に沿ったエネルギー付与パターンを反映していることが予想される。
本研究では、X線(130 kVp)やプロトンビーム(200MeV)、カーボンビーム(350MeV)を照射後に形成されるγ-H2AXフォーカスを免疫細胞化学的に検出し、フォーカスの形態的特徴を、レーザー共焦点顕微鏡を用いて比較した。その結果、カーボンビーム照射後に形成されるγ-H2AXフォーカスが幾つかの点で他の線源によるものと異なることを見出したので報告する。