抄録
低線量放射線の生物学的影響を探索する目的で、低線量率ガンマ線長期照射によるC57BL/6雄マウス肝臓での遺伝子発現レベルの変化をAffymetrix社Mouse Genome 430 2.0 アレイにより解析した。照射線量率を32 nGy/min(低線量率)、650 nGy/min(中線量率)、12.5 μGy/min(高線量率)として485日間照射後(総線量はそれぞれ20.6 mGy, 416 mGy, 8030 mGy)すぐにマウスを屠殺し、臓器を摘出した。最初に遺伝子発現変化の全体像を把握するために、一群3匹の個体の臓器より抽出したTotal RNAを等量ずつプールし、プローブとして使用した。このアレイ上には約45000個のオリゴ(39000遺伝子)が載っているが、解析するのに十分な高い発現レベルであった遺伝子数は対照群、低線量率群、中線量率群、高線量率群で各々約19900, 20700, 20400, 20300個であった。そのうちWilcoxon's Signed Rank testに基づいた発現比較アルゴリズムにより、対照群に対して2倍以上発現が変動(上昇または下降)していると判定された遺伝子数は脾臓の低線量率群、中線量率群、高線量率群でそれぞれ約400, 320, 500個で、肝臓において低線量率ガンマ線長期照射に応答する遺伝子はかなり多いことが期待された。次に3個体別にその発現変化を比較したところ発現レベルに個体差があることがわかり、3個体全てで発現が変動している遺伝子数は減少した。しかしながら、最も低い線量率でも25個の遺伝子で2倍以上の発現変化が見られ、非常に低線量率の放射線に対してでも応答する遺伝子が少ないながら存在する可能性が示唆された。