抄録
低線量放射線による適応応答の機構をタンパクレベルで明らかにするため、放射線照射後の細胞内タンパク発現変化をプロテオーム解析し、放射線により発現の変化するタンパクを網羅的に探索した。また、加齢動物から培養した細胞でも同様の解析を行い、加齢の影響も併せて検討した。
異なる月齢のWistarラットの海馬より、アストロサイトを培養した。X線照射(0.1Gy)後、一定時間培養してから細胞を採取し、二次元電気泳動によるプロテオーム解析を行った。タンパクの同定は、MALDI-TOF/MS/MSを用いて行った。またmRNAの発現解析は、低線量照射後の細胞からtotal RNAを抽出し、逆転写後、リアルタイムPCRを行うことにより解析した。
若齢動物の細胞で、0.1Gy照射3時間後に発現の増加するタンパクスポットを発見し、elongation factor 2(EF2)のフラグメントと同定した。EF2フラグメントの発現増加は一過性で、老齢動物の細胞では変動せず、適応応答の発現と一致していた。また、フラグメントは、EF2の機能であるペプチド伸長活性には関与していない部分であることが明らかになった。EF2の抗体を用いたウェスタンブロットやmRNA発現解析から、EF2自体の発現は低線量照射により影響を受けず、細胞全体のタンパク合成能に変化はないことが示唆された。以上より、0.1Gy照射により一過性に発現増加するEF2フラグメントは、ペプチド伸長因子とは異なり、適応応答制御因子としての機能を持つ可能性が示唆された。