抄録
電気刺激を臨床に応用しようとする研究は、1950年代の保田等による骨の圧電気現象の発見と微小電流による電気刺激が仮骨を形成させるという報告に端を発しており、電気を用いた治療が整形外科における一手段として定着するようになってきた。一方、1979年に疫学研究により磁界曝露と小児白血病の発症との間に関連性があることが報告された。このような経緯から電磁気現象の生体に及ぼす影響が有益および有害の両面から注目された。近年は、低周波電磁場を中心とした変動磁場ならびに直流磁界の安全性に社会的な関心が集まり、一方では磁場の有効利用の立場から医学への応用についての研究がなされるようになってきた。電磁場の安全性については、問題の発端に関連する発がん実験を始めとして、生殖・発育、行動・感知、神経内分泌等に対する影響を明らかにするため、マウス、ラット、ハムスター、ヒヒならびヒツジなどの動物を用いた研究が行われている。ヒトを対象にした疫学研究や直接曝露実験も行われてきた。動物実験からは安全性、ヒトの健康に有害な影響を及ぼす結果は得られていないが、国際がん研究機関(IARC)は、疫学研究に着目して、「低周波磁場はヒトに対して発がん性を持つ可能性がある(グループ2B)」と結論付けた。一方、低周波電場、直流電磁場については発がんとの関連性はないとされた。 臨床応用としての電気刺激は、低周波領域の電磁場が使われており骨の治癒に対する多くの報告がなされており、骨組織以外の治癒促進を狙った電磁場の応用についても基礎的な研究が行われている。しかし、明確な作用メカニズムは確立されていない。電磁場に関する研究は、安全性および医療への応用を意図した両面からの研究がさらに進められることが期待される分野である。