抄録
現在、われわれを取り巻く自然環境は様々な有害要因にさらされ、これらの人体に対する影響に興味が高まっている。特に、胎児や子供への神経系の発達に対する影響(発達神経毒性)を調べることは、重要な課題として認識されているものの、哺乳類の胎児は母親の体内で発生するため、容易に観察することが出来ない。メダカは卵が体外で発生し、かつ、卵殻が透明なので、哺乳類の胎児では不可能な発生の全過程を観察することが出来る利点を有している。さらに、メダカの脳の形成、発達過程は、基本的に哺乳類のマウスの脳のそれと似ていることも示されている。
我々はX線を環境有害要因の1つとして、致死線量より低い線量で照射し、脳発生に対する影響の詳細を観察した。X線10Gy照射により、初期胚期と後期胚期について検討を行った。その結果、生きた個体で、照射後4〜6時間後に実体顕微鏡下、細胞死が認められた。その後、20〜35時間後にこれらの細胞死は消失し始め、60〜72時間後には全ての細胞死がみられなくなった。照射した胚はほとんど全てが正常に孵化した。しかし、孵化期の組織を調べると脳(特に縦走堤)や網膜に異常が認められ、脳の大きさの測定でも、非照射の胚より明らかに小さいことが判明した。また、初期胚期の照射卵では、非照射卵に対し、有意差のある割合で、孵化期の遊泳異常がみられた。これらの結果より、メダカの卵が、環境有害要因による発達神経毒性を調べるのに、大変有用な材料であると考えられる。現在、線量5Gyについても実験を行っており、同様な知見が得られつつある。