抄録
これまでの臨床研究から、アポトーシス抑制因子のひとつであるBcl-2が固形腫瘍において高発現していること、そして、これらの腫瘍は同じ組織型であってもX線やガンマ線といった低LET放射線に難治性を示すことが知られている。しかし、Bcl-2の発現量の違いによりがん細胞の放射線致死感受性がどのように変化するかは実験的に証明されていない。そこで、本研究では、Bcl-2の過剰発現ががん細胞の放射線致死感受性に及ぼす効果を明らかにすることを目的とした。コロニー形成法の実験結果から、60Coガンマ線に対する10%生存率は、親株のHeLa細胞では4.8Gyあったが、Bcl-2を過剰発現させたHeLa細胞(HeLa/bcl-2細胞、東京大学の三浦正幸先生から譲与)では6.9Gyであったことから、Bcl-2の過剰発現によりガンマ線に抵抗性になることがわかった。さらに、今後は、放射線治療による寛解性の向上を目的として、低LET放射線に比べ生物効果が高く物理学的特性にも優れていることからがん治療に臨床応用されている高LET放射線に着目し、重粒子線によるHeLa/bcl-2細胞の致死効果を解析することにより、Bcl-2の高発現により低LET放射線に抵抗性を示す固形腫瘍に対する重粒子線治療の有用性を基礎的に検討する予定である。