抄録
重粒子線などの高LET 放射線により生じたDNA損傷は、低LET放射線と比較して局所に限定し、かつ複雑な形状を持つために修復しにくいと言われているが、まだ確たる証拠は無い。われわれは、ほ乳類培養細胞を用いて、DNA修復因子rad51とDNA障害を反映すると言われるリン酸化型H2AX(γ-H2AX)の重粒子線照射後の動態を調べた。
ヒト正常繊維芽細胞NB1RGBおよびGFP標識rad51遺伝子を導入したチャイニーズハムスターCHO細胞にX線もしくは放医研HIMACにより加速した炭素線(88 keV/μm)、珪素イオン線(250 keV/μm)、鉄イオン線(440 keV/μm)を照射した。H2AXリン酸化は、アルコール固定後H2AXのリン酸化部位に対する抗体を用いて検出した。
フローサイトメーター(XL-II, Beckman Coulter)による解析では、X線照射直後からγ-H2AXが上昇し、30分付近で最大となった後減少し、2時間から10時間ではかなり少なくなっていた。同程度の致死効果を示すSiおよびFeイオン線では、照射直後からかなりのγ-H2AXが生成し、20分までやや増加した後、20分から1時間でピークとなり、その後減少した。Feイオン照射では減少は小さかった。放射線照射後のγ-H2AXフォーカス生成を共焦点レーザー顕微鏡(BIO-RAD, MRC-1000)で観察したところX線では照射直後にははっきりしたフォーカスは観察されないが、粒子線では照射直後からフォーカスを観察できた。一方rad51フォーカスは照射直後には観察されず、照射後約2時間後から観察でき、10時間程度後まで残存した。