抄録
イヌにおける口腔内発生黒色腫は、外科的治療を適用した場合、動物の生活の質の低下や外貌の変化によるオーナーの精神的苦痛が大きく、このため放射線治療が望まれる。また黒色腫はX線治療に抵抗性であり、人のがん治療において線量分布が良好であり生物学的効果が高いことから応用が進んでいる粒子線の適応が期待される。しかしイヌ自然発生黒色腫に関する放射線感受性の報告は不十分であり、更なる研究が必要である。
本研究ではイヌの自然発生黒色腫由来の株化細胞(CMM2)に対して、原子力機構・高崎のTIARAにおいて線質の異なる放射線、炭素線(線エネルギー付与LET=108 keV/μm)、陽子線(LET=2.7 keV/μm)およびX線(LET=1.0 keV/μm)を照射した。低線量域から高線量域にかけて細胞致死効果をコロニー形成法によって評価した。放射線照射後に適度な細胞を播種し、培養8日後に固定・染色により生存率を算出することによって生存曲線を作成した。
X線および陽子線照射における生存曲線は低線量域において肩を形成するのに対して、炭素線照射において肩は形成されず、著しい生存率の低下が観察された。線質間による放射線感受性の違いを評価するため、10%生存率線量で比較したところ、炭素線、陽子線、X線の順に細胞致死効果が高く、LETが増加するにつれてX線を基準放射線としたRBE(生物学的効果比)も増加することが観察された。これらの結果より放射線のLET依存的に細胞致死効果が高くなることが示唆され、炭素線の口腔内発生黒色腫治療への適用により高い治療効果が期待されると考えられた。