抄録
【研究背景・目的】
一般に重粒子線のような高LET放射線の生物作用では、直接作用が重要であり、間接作用の寄与が小さいといわれている。しかし、これまでのわれわれの実験において、重粒子線を2’deoxyguanosine (dG)水溶液に照射したところ、間接作用によって生成される代表的な塩基損傷である8'hydroxy 2'deoxyguanosine (8-OHdG)が有意に検出され、高LETでの間接作用の重要性が示唆された(2002年度本大会発表)。本研究では、水溶液照射の次の段階として、細胞内での8-OHdGの検出を試みた。その検出結果から、8-OHdG生成のLET依存性について、また、同一LETでの粒子種による生成の違いを検討した。
【実験方法】
放射線医学総合研究所のHIMACより供給された炭素、ネオン、シリコンビームをヒト白血病細胞HL-60に照射し、DNAを抽出後、酵素によりヌクレオシドまで分解した。8-OHdG、dGをHPLCにより分離し、8-OHdGは電気化学検出器により、またdGは紫外吸収によって定量した。8-OHdG生成率は、8-OHdG/dGとして求めた。本実験で用いたLET(keV/μm)は、炭素ビームが20、50、80、ネオンビームが80、100、150、シリコンビームが150、200、250である。線量は全て300Gyで行った。
【結果と考察】
8-OHdGの生成率は、LETの増大とともに減少した。すなわち、LETが50 keV/μm付近までは急激に減少し、それ以後の減少率は緩やかであった。このLET依存性は、dG水溶液照射の場合と同様であり、また、以前われわれがDMSOによる致死の防護作用のLET依存性において観察した結果とも類似していた。これら一連のデータは、高LET領域でも依然として間接作用が重要であることを示している。同一LETでの粒子種による違いについては、LETが80 keV/μmにおいて、炭素ビームとネオンビームがほぼ同じ値を示したことから、粒子種の違いは8-OHdG生成率に影響しないことが示唆された。