抄録
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は癌細胞に高濃度のホウ素を取り込ませなければならない大きな課題があった。このような効果的なホウ素化合物があれば熱中性子と二つの因子の共集合の部分に核反応が起こり効果的な治療法になり得る。かつアルファー線の飛程が約10ミクロンと短いため癌細胞の内部にとどまり浸潤性の癌にはより効果的である。近年、ボロノフェニールアラニン(BPA)が癌細胞に高濃度集積することがわかった。そこでホウ素の集積状況を生体で知り得るために定量性のあるPETが候補にあがりBPAに似たフルオロボロノフェニールアラニン(FBPA)をPETトレーサとして合成した。その結果、腫瘍の活性領域とホウ素濃度を評価することができ治療に必須な情報収集法として認識されてきた。BNCTでも過剰照射に対してはより慎重であるべきでPETを活用するようになって安全に治療を行うことが可能となった。
このような流れの中、FBPA-PET検査により頭頚部、肺などにも適応拡大が可能であることが明らかになった。特に肺では含気が多く中性子は空気中を良く通る性質のためBNCTの適応においては有利な環境にある。また動脈投与など特殊な投与方法でも正確なホウ素濃度を予測できるようになった。転移性肺癌では限られた領域に複数個見つかることがあり、このような症例では照射野を広くすれば同時に治療することも可能と考えられる。そこで直線加速器によるBNCTも近年積極的に研究課題に取り上げられ現実味を帯びてきた。実用段階に達すれば広範囲にも照射が可能となり大きく癌の治療に貢献することになるものと期待される。さらにFBPA-PETでは取り込みが癌の悪性度に相関するために、照射前の評価のみならず照射後も治療効果の評価が可能で、BNCTのみならず高精度放射線治療や粒子線治療の効果判定にも使用できる。